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〜フルール〜周防高幸の後悔69

『すおうくんはいいこだよ』

『すおうくんは、わるくない。すおうくんのせいじゃない』

自分のために泣いて憤ってくれたのは誰だっけ…。

『ありがと――くん』

誰だっけ思い出せない。

ぼんやりと目を開けると辺りは暗くて、左腕に点滴の針が刺さっていた。

「…どうしたんだっけ…」

なのさんと話をしてて、急に息苦しくなった。

倒れたのか。また。

長く息を吐き出して起きようとする。

とたんにめまいがして、枕に頭が沈んだ。

こんなの初めてだ。

―――いや。初めてじゃない。たしか前にもあった。

いつだったか。でも確かにあった。こんな感覚が。

『すおうくんはおぼえてなくていい』

『ぼくがおぼえていればいい』

『ぼくはすおうくんのためにいるよ』

誰だっけ誰だっけ誰だっけ誰。

『俺はお前のために』

…ここにいるよ…。

「……たかくん……?」

「起きたか」

部屋の中に黒い人影があった。

「熱はないな。気分は?」

額に触れる手が冷たくて気持ちいい。

「…滝本先生?」

「オーバーワークでダウンしたんだ。週3日夜勤を2ヶ月も?少しは断れ。間男」

「…すみません…」

「あと勝手に血液検査したぞ。栄養失調な」

「…はぁ…」

「メシがキライか?微量元素が採れないから多少はマズくても喰え。カロリーメイトじゃ腹の足しにしかならん」

「…はい…」

「寝ろ。多岐川が明日あんたを休みにすると言った。1日入院だ」

「え」

「あと2本は点滴する。1本3時間くらいかけて体に入れる。それで少しはラクになるはずだ」

「今…何時ですか」

「夜中」

短く答えた滝本は、そっと布団を掛け直してくれる。

「寝ろ。業務命令だ、間男」

「はい…すみません…」

目を閉じると頭を優しくなでられた。

…なんで?

「おやすみ」

声が優しい。

なんで?

滝本が影のようにするりと部屋から出て行くと、不意に泣きたくなった。

ごちゃついた感情は、苦手。

引きずられてしまうから。